Japanese Calligrapher Aoi Yamaguchi

#10
書家
山口碧生
文字という象形の美しさを極める書道の世界。その独特の文化は東アジアで連綿と受け継がれ、エキゾチックなアートとして今欧米でも認められつつある。 でもいわゆる土着の、リージョナルなアート・異文化の象徴として物珍しく受け止められていることが多いのもまた事実。 今「書」の世界は進化を遂げようとしている。より広いオーディエンスにアピールするように。コンテンポラリーアートとしての認知を得ることが出来るポテンシャルは間違いなく秘めているように思える。 San Franciscoを拠点に活動する「書家」山口碧生は、より広く欧米の大衆に「書」の世界を広める為に新たな道を切り開く一人だ。精力的に「書」とパフォーマンス、音楽を融合する実験を試み、またより親しみを持って貰えるようにワークショップ等も行っている。 リニューアル第一弾の今回は、New Yorkに訪れていた山口碧生さんに時間を頂きお話を伺った。
m: monocomplex
A: Aoi

m: まず「書家」としての活動について教えてください。あまり馴染みのない肩書きですよね。

A: 中国から受け継がれた歴史的な書の道を極める、というのが書道家。そこに様々のものをプラスしていって、書く・描くということを極める。そういう意味で私は書家と名乗っています。

私にとっては音楽の結びつきがとても大事で、DJと一緒にパフォーマンスをしたり、普通の書道では使わないハウスペイントやアクリルを使ってキャンバスに描いたりもしてます。最近ではイベントが多くて、アジア文化を紹介するフェスやハウスミュージックのDJとのコラボをオークランドでやったり。会場にステージがあって「ここを好きに使っていいよ」って。その時はモデルの体に字を書いたりして。書道は平面だけじゃなくて、ムーブメントを見せるパフォーマンスなんです。

そういったライブペイント・ライブパフォーマンスは大事にしています。私のベースはサンフランシスコなんですけど、そこで Surreality in Reality という日本人のアート集団をオーガナイズしていまして。周りに才能豊かな日本人がたくさんいたから、日本を紹介するという世界との架け橋になりたいと思ったんです。ひとりで頑張っても出来ることはたかが知れてる。けれどたくさんいれば独りじゃ出来ない大きなことが出来る。じゃあ、みんな集めて面白いことやりたいなという想いがキッカケです。グラフィックデザイナー、ペインター、イラストレーター、フィルムメーカー、DJ、ミュージック・プロデューサー、いろんなジャンルの人を集めてアートショーを年に4回ほどやっています。
その中でもパフォーマンスは書の新たな方向性としてやっています。他のペインターとコラボしたりもします。ギャラリーのBookingから、プロモーションまで全部自分たちでやっているんですよ。ショーの情報を私がまとめて、みんなのbioを集めて、フライヤーをデザインして、ウェブサイトを立ち上げて、マガジンにもプレスリリースを出して。当日みんなで「じゃあ頑張りましょう」という風に。

それからデザイン事務所などからゲストスピーカーとして声がかかるようにもなりました。文字の成り立ちや書道の在り方を説明しつつ、「私はその中でこんなパフォーマンスもやっています」というプレゼンテーション形式で話します。あとは、日本食レストランのロゴを書いたり、CDのジャケットや会社のロゴを作ったり。パフォーマンスも依頼されれば、仕事として引き受けています。
Live calligraphy performance at 還源 KANGEN -Reunited with Nature-, San Francisco,  Photo by Akko Terasawam: 書道のトラディショナルなイメージとは違って、活動の幅が広いですね。

A: 書道界では一般的に、書道展に出品して、立派な賞をとって師範をとる。コンクールや書道展等で多く賞を取り実力が認められれば名が売れて作品の価値もあがってゆきます。それでゆくゆくは書道教室開いたり、書道連盟のメンバーになったり、学校で先生として教えている方もいらっしゃいますね。私は、小さい頃から自分で詩や物語を書くのが好きで、私にとっては書もその表現のひとつなんです。ただ用意された物を真似てスキルを極めるだけではなくて、その技術を利用して自分を自由に表現するっていう意図から自然にコンテンポラリーになった気がします。アウトプットする方法がもっとたくさんあってもいいという気持ちで、「いろんなものと繋がってていいよ」という意味でやっています。

書道の敷居を下げたいという理由もありますね。実際Japanese calligraphyと言ったら、多くの米国大学では日本文学/文化科などで書道のクラスを取ったりして学べるし、UC BerkeleyなどはEast Asian Studiesの建物内、図書館にも、伝統芸術の歴史にまつわる古い文献の大きなコレクションがあることでも知られているし、日本の伝統アートを扱うギャラリーや雑貨屋などでも目にする事が出来る。Asian Art Museumなどでは中国書道の展示などで書道の歴史を学ぶことも出来る。けれど、それらへのアクセスが簡単かと言ったら、そうではない事も多い。特に日本書道の歴史に馴染みのある人はそう多くないし、目にする機会も多くない。大多数の人々にとっては、「日本料理屋で壁にかけてあるよね」っていう、ほとんどの人にとって書道の存在感ってそれだけのものかもしれないという印象を受けます。
 
もっと書道をカジュアルにいろんな人に感じてほしいですね。アメリカでは「グラフィティと書道は似ているよね」とよく言われます。文字の美しさを追求するという意味では似てるんですけど、やっぱり違うんですよね。だけど、スタンスは似ていてもいいと思うんです。スケボーやグラフィティみたいなアーバンカルチャーの中に書道があってもいい。グラフィティを楽しむ感覚で書道を楽しんでもらえたらいいな。

最近は日本にも私みたいな書道をやる若手の書家が結構いると思います。


m: 書家になろうと思った理由や経緯は?

A: 母親がずっと書道をしていたんですね。6歳の時に書道教室に連れて行かれて、始めました。先生から誉められたり賞をもらったりして、自分もやればできるのかな?って思って、はじめは習い事として楽しんでいました。私に書道をずっと教えていてくれた佐藤瑞鳳先生は、非の打ち所のない完璧に美しい字を書かれる方なんです。そして高校では書道の先生、小林雅澄先生に「書道部に入れ」と言われて入ってみたら、雅澄先生は逆にとても自由なスピリットを持っている方で。鍛錬を積んだ方が見たらヘタクソだと思うような字でも「おまえこの線ぶっとくてカッコいいな!」とか「ひょろひょろした感じが漢字の雰囲気にあってていいな!」という誉め方をするような。その先生に出会って書道の新たな世界観を体感しました。そんな自由なスタイルから創作書道という世界に入っていったんです。


m: 現在の制作のプロセスは?

A: 最初は小さいスケッチブックに詩を書いて、そこからイメージをスケッチして作っていきます。火がテーマだったら、作品を見た時にメラメラ燃え上がってる感じに描くとか。詩のイメージをヴィジュアル的に頭の中でおこして、どう文字を配置するか、色を使う場合はどんな色にするか、を考えながらスケッチして、それから制作に入ります。テーマに沿って詩を書くんですけど、それは自分の詩なんです。アメリカ人は私が日本語で書いても分からないので、ステージでパフォーマンスしてるときにはプロジェクターで投影するところにキャプションを入れて私が何を書いているか分かる様にしたり、あとは最大限に感じてもらうために音楽とコンバインもします。アメリカ人は分かり易い作品が好きですね。意味では分からないからそれは見た目で買っちゃいますよね。私は内容を大事にしたいので、作品の横に必ず解説を英語でつけるんですけど、だいたい読まれないんですよ。作り手はそこも考慮して見せ方を考えなきゃいけないと思います。
Photo by Mayumi Suzukim: では今後の展望・ビジョンは。

A: ワークショップを始めるので、一対一で書道とも人とも触れ合える場所を増やしていきたい。歴史のあるものですが、若い人達は書道に興味を失ってきていると思うんです。だからもっといろんなところで誰もが書道を体験出来る場所を増やしたいなと思う。

あと今後は、シアターを交えたショーをもっとやっていきたい。去年「地跡(ちせき)」と「還源(かんげん)」というショーをやったんです。私の書道作品を通して伝えたいメッセージがあって、それは「自然に還ろう」ということなんです。たとえば書道の筆の毛は動物の毛でつくられてるでしょ。紙も木から出来てるし。自然から来ている原料をつかってアートを表現するっていうことが、自然と繋がっている。私は北海道出身だから、自然に囲まれて育ちました。大きくなって大都市に出て生活しているけれど、その中でも自然を大事にする心を忘れちゃいけないと思うんですよね。これは自分のライフロングなテーマだと思います。それをパフォーマンスとして表現していきたい。いろんな国でパフォーマンスをやりたいなとも思います。
 
アートで食べていくのは大変ですよね。ちょっと書いてよって言われることが多いんですけど、「ちょっとやる」っていうのはなかなか出来ないんですよね。準備も大変だし、ひとつの作品を創るのには時間がかかるし。書いていて一番楽しいのは自分の線が書けた瞬間。いい線が描けた瞬間は、「やばいなこの線!」って全身が高揚するんです。

1984年北海道生まれ。6歳から書道を学び、文化の架け橋となることを志し’04年に渡米。サンフランシスコを拠点とし、様々な場所でアートショーを行う。2008年、日本人アーティスト集団Surreality in Reality (SIR)を設立。音楽や他アーティストとのコラボレーション、アート集団運営など、活動を展開中。現在カリフォルニア州オークランド在住。(Web Siteより抜粋)www.aoiyamaguchi.com

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